会報No.2(昭和53年12月1日)

会報No.2(昭和53年12月1日) 会報
会報No.2(昭和53年12月1日)

函館の街なみ・環境文化を語る《報告》足達北大教授の講演 懇話会・宮丸吉衛氏を囲んで 懇談会

 運営委員 大野 和雄

函館の街なみの美しさ/様式の混在と調和

 去る7月8日、古都保存や魅力ある街づくりの研究で知られ、函館の街なみに多大な関心を寄せ調査研究された足達富士夫教授(北海道大学工学部)を招き、会員相互の学習と交流を兼ねた懇話会がもたれた。足達教授は『函館の街なみ保存について』と題し、元町地区の数度の各種調査・分析データをもとに基調講演をされた。
 「元町地区(狭域の西部地区を指す)は、函館発祥の地、函館の歴史を表現する文化財的建造物が多く、何よりも市民自身の保存意欲も強い。さらにその市民的価値以上に全国でも稀な街なみの特色を持っている。それは各種様式の混在ということである。外観上、それらは、純洋風・上下和洋折衷・左右和洋折衷住宅、和風町家・和風邸宅、土蔵またはそれに準ずる組積住宅に分けられそれらが混在しながら、街なみの景観を混乱に陥ることなく一つのまとまりを保っている。それは建造物の高さが一定の調和をもっているからでもある。また、坂道の辻の景観は格別の味があり特に美しい。」と述べられ、さらに「これらのすばらしい街なみを保ち、将来の街づくりの中に活かしていくことは、函館にとってはもちろん、国土の整備という観点からも重要である。また維持において、博物館のような使い方もあるが、我々の生きた生活の中での利用、例えば外観保存・内部改造のような工夫も必要であろう。場所によっては、むしろ積極的に再開発をすすめ空地緑地をうみだすことも大切である」とむすばれた。
 講演後、テーブル·デスカッションに移り、街なみ保存・街づくりにかける会員の熱意·抱負が語られ、テーブルごとにすぐれたアイディア·貴重な意見が交流され有意義に懇話会を終えた。

西部地区/基坂・元町は、函館のこころ

 全国的に注目されつつある函館の歴史的風土の実査研究に来函した隔月刊誌『環境文化』編集責任者宮丸吉衛氏(財団法人環境文化研究所)を迎えて、去る8月13日懇談会が開かれた。宮丸氏をはじめ、足達富士夫教授、本会から今田会長ほか15名、また函館市の文化財行政の立場から市教育委員会の吉田社会教育部長も出席した。
 宮丸氏の「函館の今昔や西部地区の魅力などを中心にお話し下されば幸甚です。」とのあいさつに続き、函館の歴史と文化を語り、エコノミー偏向からエコロジーの大切さと函館に住む喜びを連帯しどう守るかについて活発に懇談した。席上、宮丸氏の「函館·西部地区の魅力は?」との問いに、川嶋龍司氏は「海が見え漁火が見え山も水もきれいで温泉がわいて、こんなよいところはない。」、橋本三郎氏は「私達が絵をかきだした頃は、元町周辺が一番絵になるところだった。バラに囲まれた英国領事館は実にきれいだった。向いの函館病院、上には渡島支庁舎、その上に公会堂、教会の石垣に沿ってポプラ並木、石だたみの基坂、海を背にした税関等は、市民の心が洗われるような風情があった。西部はすばらしい。土地柄に合った建物が消えていくとすれば、西部は砂漠になる。市民の手で守らねば。金も出そう。」と力説した。さらに、一人一人発言し理解を深め、最後に、若山徳次郎氏は「陳情し市に金を出せというだけでなく、新しい市民運動として輪を広げ、市民自らが守る姿勢と浄財基金を蓄積し、市民の共有財産である文化財を守りたいものである。」と述べた。
 四季の配分がほどよく表現できる街、函館の環境文化を学び・知らせ合い・ともに守るため、本会のもつ責任の重さをあらためて知った貴重な懇談会であった。

パリの街かどで……

運営委員 佐渡谷 安津雄

 10月中旬、市内の若い美術愛好家達を募っての私のパリ行きは当初「何を学ぶ」という目的は特にはっきり持っていなかったわけですが、たまたま出発前の某日、朝日新聞本社の木原啓吉氏を囲んでの委員会の集いの席上木原氏から「歴史的景観や街なみを守っていくにあたってパリのマレー地区の保存運動とその思想は今後私共の運動に大きな教訓となるであろう」とのご意見を伺いました。そこでただ単なる観光にとどめず、その国の歴史の息吹きを少しでも多く学びとる姿勢を持たなければとの思いにかられ、旅立った次第です。思えば僅か三日間のパリのスケジュールの中で先ずパリ滞在中の橋本三郎先生を訪ねました。アトリエはマレー地区の一郭にあるアパルトマンで、ふと見ると室内の壁にマレー地区都市計画地図=これはマレー地区内での保存、修復、複元、たて替え等が落ちついたカラーで色刷された計画地図です=が張られていた事が今も強い印象として残っています。近代的な空港からパリ市内に入って先ず感じた事は、数百年に亘り人間がそこに生き続けてきた街の歴史の重さがあり、至る所で主人公である市民の精神的所産に出逢う事しきりでした。永い時の流れを経た教会などの公共建造物の見事さは勿論です。が七階か八階に高さを制限し統一した古びたアパルトマンの景観も又格別でした。アパルトマンの大半の窓辺に咲く花が秋の日射しに輝き何と美しかった事か。過去幾 多の人々が行き交ったであろう石畳の小道をはさみ石づくりの家々が続く、その間から狭い空がのぞいていた。
必ずしも住み心地は良くはなかったかも知れないアパルトマン、しかし誰の為でもなく彼等自身の為に植えた花々が道行く人々に安らぎを、古いパリの街なみに新鮮な生命を与えているようでした。庭つきの家を夢にえがきつつ、今も昔のままの家に住むパリ市民の歴史への限りない愛着と優しさ、そして誇りと知恵をかいま見た思いでした。教会等は幾十年いや幾百年もの歳月を費し営々として築き上げたものもある。幾星霜の間には歴史的な変化や、当然考え方の変化もあり途中中断を余儀なくされたが、とうとう完成を見た建物もあると聞く。歴史的評価や価値感すら五年単位ぐらいで目まぐるしく転変する日本、而も好むと好まざるに不拘ず、自分でも納得できない内に、何か得体の知れない大きな力に動かされ、時には破綻の反省までも強いられる今日の日本に住む私にとって、パリの姿は全く信じ難い光景でした。
 歴史的遺産を残すと言う事は、決して過去の屍としてのそれではなく、生きる人間が生きた生活の中にしっかり過去を位置づけ、原初の生命をたえず、蘇らせてゆく行為ではないかと思うのです。芸術の街パリの素晴らしさは自由·平等·博愛と言う至高な魂 求め続けるパリ市民ひとりびとりの誇りに根ざし花を開いたものではないでしょうか。
 函館の歴史的風土を守る会のモットーである<学び・知らせ・守る>と言う精神活動が、真に私共市民ひとりびとりの心となった時、おそらく今日の函館より遙かにすばらしい街がつくられていくであろう……と、そんな想いに駆られたパリの旅でした。

歴史の散歩 シリーズ2 ~旧函館郵便局本局々舎~

 須藤 隆仙

 太平洋戦争が始まる少し前に私は寺の小僧となった。当時はまだ小説で語られるような特殊な生活の一面もあったが、ちょっと予想しなかった仕事もあって、その一つに、毎日のように相当数の郵便物を出すことがあった。
 檀家への行事の案内状や、道内の寺への書類など(道内の寺の役所のような仕事をしていた)数が多くなると料金別納で発送するから、必ず郵便本局へ行かなければならない。私は大きな風呂敷にたくさんの郵便を包んで船見町のお寺からよく本局へ通ったものである。電車を利用せず歩くほうが多かった。
 子供心に私は局の建物を“外国のお城のようだ”と思った。”今は戦争をしているが、本当は函館は外国とすごく仲の良い街なのではないのか”そんなことを考えて、ちょっと力のいるドアを元気よく押したのが昨日のようである。当時この場所は船場町といっていた。明治44年に総べてが完成したというこの素晴しい煉亙建築、川嶋先生の『はこだての文化敗』によると「明治洋風建築として迎信省の新しい建築様式に請通した人の設計」とある。函館にはどうしてこんなに宝物が多いのであろうか。

部会だより 動きだした旧渡島支庁々舎保存運動!―市民連合の力の育成を―

運営委員 三根 誠

 本会の本年度の最大の懸案であった、旧渡島支庁々舎保存にむけての活動が始まった。「旧渡島支庁々舎の評価と保存、利用に関する提言」という小冊子の発行はその第一弾である。
 会員には既に届いているはずなので、内容の紹介は省く。一言だけ補足しておきたい。この提言書は、旧庁舎の歴史的価値に市民の関心がむけられ、市民の理解と熱意で、旧庁舎が恒久的に守られていくことを願っている。この提言書はいわば市民にむけた小さな波紋である。さらに、全市民的コンセンサスという大きな波紋に育てるには、つぎの具体的な活動も必要だし、守る会だけでは力不足という事である。我々の力を過信してはならない。
 もちろん、「守る会」の存在意義は大きいはずである。既に、その影響力をはたしていることも事実である。この提言書は、今田会長ら三役によって、市長、市議会議長、市教育長にも直接手渡されている。市長からは非常に前向きに、旧庁舎保存の為に約1億2千万円の財政的措置を構ずる旨の意向が示されているのも、この守る会を中心とした市民運動主体の力が影響していることを、私どもは容易に認めうる。
 旧庁舎を恒久的な市民財産として保存するには、市財政だけに依存する事は出来ない。私ども、この「守る会」にも限界がある。私は一つの提案をしたい。行政を含めた市民連合の力がどうしても必要だ、という事。いわば市民連合組織体に守る会が育つ事を願いたい。はこだてを愛する心さえあれば、必ず出来ると私は考えている。その為の調整力をもつ中間組織として、「守る会」の役割は大きい。
 当面の本会の活動の第二弾は「保存と活用」を一体とした旧庁舎保存にむけての運動を展開する事である。これには「守る会」事務局の御努力を多とする。

部会だより 普及に関する活動状況

運営委員 田中 雪子

 創立以来七ヶ月余りを経た。その間函館の歴史的環境ともいえる西部の街なみ保存と活用に関する市民運動の展開を如何に推し進めていったらよいか。加えて諸問題が山積しているだけに、あれもこれも一度には実現不可能でありましょう。従って一つの問題に取り組みそのすべてが解決する道のりは遠いかも知れない。しかし将来に向って歩をゆるめる事なく着実に歩み出している事は確実である。本会の発足の大きな契機となり最も市民の関心の的であ 旧渡島支庁々舎問題の第一段階は行政への提言として表し、その結果、市側の前向きな姿勢を知る事が出来た。今後第二段階に入る実践活動は、両部会が一丸になって奮起しようとしている。
 因に本会は、ただ単なる行政への陳情団体ではない。あくまでも郷土函館の為に市民と共に考え、行動し最後に“出すものは出す”という、やるからには『三位一体』を地でゆく本物の活動を展開してゆかなければ市民から遊離してしまう事必至です。よって今後の各種行事を目下検討中ですが、その折には会員諸氏、どうか振るってご参加願いたい。以下はこれまでの本会の普及に関する活動状況をお知らせします。
(1) 7月8日 北大工学部、足達富士夫教授(建築学専門)をお迎えして“函館の街なみ保存について。講演後64名の参加会員によってテーブルデスカッションをし、学び合い·知らせ合う、実りのある懇話会であった。
(2) 8月13日 財団法人環境文化研究所、同部長宮丸吉衛氏並びに北大工学部足達富士夫教授が『函館の街なみ及び歴史的環境調査』で来函、この機会に本会との取材を要請され16名が参加。後日全国版隔月刊紙、10月1日発行の『環境文化』No.36号に“漁火の見える丘の町”と題して15頁に亘って本会の取材記事を紹介、掲載される。
(3) 9月27日 函館市文化団体協議会に加入する。
(4) 9月28日 朝日新聞本社編集委員、木原啓吉氏の取材を受け、12名が参加。後日朝日新聞全国版10月9日付月曜ルポに「歴史的風土を守れ」と題して掲載される。
(5) 10月5日 東山小学校PTA主催“函館の歴史の跡を訪ねて”(西部巡り)の案内役を工藤事務局長が果たす。
(6) 10月6日 “旧渡島支庁々舎の評価と保存・利用に関する提言”についての提言書を三役によって、○1函館市長 ○2函館市議会議長 ○3函館市教育長 に提出、市側の前向きな姿勢を知る事が出来た。
(7) 11月2日 「一土会」の要請を受け、今田会長他2名が青柳小学校に出向き「歴史的風土について」語った。
(8) 11月7日~12日の6日間に亘って赤光社公募美術展会場(棒二森屋)に於いて普及活動及び会員拡大に務める。
 ※30名加入申込あり。
(9) 11月17日 “旧函館郵便局本局々舎、保存・利用について”所有者魚長食品柳沢勝社長と意見の交換をする。

やませ 私の赤レンガ

魚長 柳沢 勝

 私は昨年、大丸藤井さん所有の赤レンガ(旧函館郵便局)を譲り受けました。当初これは取りこわしの上、工場の拡大を図るつもりでおりましたが、諸もろのご意見もあり、取りこわしは後になってでも遅くはないと思い計画を変更しました。新しい計画の一つは倉敷のアイビースクエアーのようなホテルを考えましたが、資金的な問題で中止しました。本年四月頃、現在の赤レンガの外観はそのままにして水産加工場の方向で隣接地の皆様からは条件つきでの賛成も得られたのですが、建物利用の件で諸問題があり、これも止むなきに至りました。
 現在私個人としましては、この由諸ある建物は大切に保存しておきたい……と思っておりますが、いずれにしろ一ヶ月約百万円の維持費を要し大変な事も又事実であります。私の希望としましては、できる事なら早急に市で買いあげ若しくは賃貸致してもらい美術館·スポーツセンター·郷土資料館等にご利用いただければ西部発展の一助になるやと思われます。函館には歴史的建造物が多々ある事を今更のように痛感している昨今ですが、函館が望ましい観光開発を進めてゆく上にもこれら由諸ある建物が充分生かされるよう皆様のご協力を期待する次第です。

会のあゆみ <53・7・7~11・28>

○7・7 懇話会開催準備打合せ
○7・8 懇話会開催(64名参加)於五嶋軒本店
○7・20 会報(創刊号)・会員名簿・アンケート用紙の発送
○8・13 懇談会開催(財団法人環境文化研究所宮丸吉衛氏並びに北大足達富士夫教授の取材をうける)
○8・22 第2回研究活動部会々議
○9・14 ”旧渡島支庁々舎の評価と保存·利用に関する提言について”の打合せ会議
○9・25 第3回運営委員会 旧渡島支庁々舎の評価と保存·利用に関する提言内容の審議と決定
○9・27 函館文化団体協議会に加入
○9・28 朝日新聞本社編集委具木原啓吉氏の本会活動のルポルタージュを受ける
○10・5 東山小PTA函館の歴史の跡を訪ねて、案内する
○10・6 “旧渡島支庁々舎の評価と保存·利用に関する提言”の提言書を市理事者側に提出
○10・20 提言書会員宛発送
○11・1 本会運営委員大野和雄氏著“函館今日から明日へ”出版記念祝賀会に参加
○11・2 「一土会」の要請で「歴史的風土について」語る
○11・2 会員拡大について赤光社幹事と打合せ
○11・6 会員拡大について事務局会議
○11・7~12 普及活動と会員拡大に務める。赤光社公募美術展会場(棒二森屋 於)
○11・13 “市長を囲む文化サロン”に参加
○11・15 “第17回市民文化交歓のつどい”に参加
○11・17 旧函館郵便局本局々舎所有者柳沢勝氏を訪問
○11・27~ 会報第2号編集会議

事務局だより

事務局長 工藤 光雄

○1 12月1日 現在 会員数 222名
 なお新会員49名の紹介は別添の通りです。
 新会員の皆さん!入会有難うございます。
○2~第一回文化財保存するチャリティ、クリスマスパーティ開催~
 ・日時 12月22日(金) PM 6:00より
 ・会場 函館国際ホテル ・会費 4,000円
 ※多くの参加をお待ちします。よい年をお迎え下さい。
○3先般配布済みのアンケートの集約作業に入っています。未提出の方々のご協力をお願い致したく、年内に事務局迄送付下さるようお待ちします。よいお年をお迎え下さい。

編集後記

☆会員の皆様お元気ですか。いよいよ冬将軍の到来と同時に北国を象徴する美しい銀世界が又やって来ました。さて会報第2号をお届け致します。本会の今後の「行動規範」が広く市民にアピールされる事を願いつつ、私達も活動を通して良い紙面づくりに誠心誠意努力する所存です。今後共よろしくご協力のほどお願い致します。<田中>
☆数年来住民運動に汗した者として大きな時の流れを感ずる。高度成長期は抵抗·告発の運動で、その主張はそれなりに歴史的意味があったと思う。而し対立抗争が目的でない事も又事実です。これからは行政・市民・専門家が一体となって新しい価値創造にむけ人間的英知を傾ける時ではあるまいか、と思う今日この頃です。<田尻>
☆五稜郭タワー事務所の一角で、第2号の編集会議。田尻・田中両女史のファイトあふれる熱気で室中満ちている。編集という不慣れな仕事をおおせつかり、何とかご迷惑をかけまいとがんばっている。会員の皆様には、この会報を通して本会の動きを読み取っていただけるだろうか……。ご意見など事務局宛お寄せ下されば幸いです。<多田>

函館の歴史的風土を守る会会報 No.2 S53.12.1発行
発行所 函館の歴史的風土を守る会
    五稜郭タワーKK内
    函館市五稜郭町43番9号 (0138)51-4785
印刷所 スピード印刷センター

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